あるとき高知市が大水害に襲われたことがあり、何千台もの車が水没しました。

横田さんが会社に行くと、既に社員たちが水没した顧客の車を調べ上げ、積載車で車を引き揚げたり、整備したりしていました。
他のディ―ラーは顧客から要望があれば対応していたところ、横田さんの「ネッツトヨタ南国」は、自分たちから顧客へ、それも社員たち自ら働きかけていったのです。
これをされたら、顧客は熱狂的なファンになるのは当然でしょう。

そうして、他のディ―ラーが翌日の昼頃に対策会議を開いたころ、ネッツトヨタ南国ではあらかたの作業が終わっていました。

ネッツトヨタ南国の社員たちは、上からは何の指示・命令がなくても、前例がない緊急時にどう動いたら良いのか、全員が心得ているのです。

大水害などという事件は、完全に想定外ですから、あらかじめどうするかを教えておくわけにはいきません。
そういう滅多にない緊急時でも的確に動けるということが、その会社の社員のクオリティを表している、といっても良いでしょう。

横田さんが言うには、入社してからの育成も大事ですが、その前に「どういう人を採るか」がもっと大事だそうです。
ネットトヨタ南国では、採用にあたり一人当たり30時間から150時間の面接や実習をし、「企業文化」のいいところも悪いところも全部見てもらって、会社が候補者を選ぶというよりは、候補者自身に来るか来ないか決めてもらいます。

また、「いい人を採る秘訣」として横田さんは、「待遇を悪くし、給料、特に初任給を安くする」と言っておられます。
一般常識と逆ですね。
待遇が良く、給料が高いと、それを目当ての人が来ます。
逆なら、待遇や給料より、「働きがい」、「生きがい」を求める人だけが来る、という訳です。

もちろんその前に、「働きがい」のある職場ができていなくては話になりません。
「企業は社員の幸せのためにある」横田さんもそうおっしゃいます。

また、従業員にまともな給料を出す、というのは経営者の願いであり、務めでもあります。
それについても、お金では無い価値観で働く人たちが集まれば、いい仕事をするので、収入が多くなり、「結果として」分配される給料はかえって上がる、というわけです。

多くの中小企業経営者は、「中小企業はなかなかいい人材が採れない」と嘆いておられます。

横田さんの発想は、まったく逆です。
中小企業の、しかも学生にあまり人気の無い自動車ディーラーという業種だからこそ、大企業よりもはるかにいい人が採れるチャンスがある、というのです。
大企業に行く人は、安定性、いい給料、世間体など、外的な条件を第一に考える傾向が強く、それは横田さんが来て欲しい人たちでは無いからです。

一般常識とは逆ですが、横田さんの言うことのほうが真実に近いと、私自身のソニーでの経験からも思います。

このように、横田英毅さんのマネジメントは一見突拍子がないように見えますが、ひとつひとつの施策の背景には、考えて、考えて、考え抜いた智慧が詰まっています。
その智慧がどうして出てくるのか？
実は、とても深い「人間理解」と「自己探求」に裏付けされています。

横田さんのマネジメントのひとつひとつは、簡単に理解でき、すぐにでも実行できますが、この「智慧」や「人間理解」は、必ずしも言語化できず、理性と論理では把握できません。

このセミナーで、「生（なま）の横田氏」と接していただき、天外も含めたホットなダイアログを通じて、神髄を肌で感じていただけたら幸いです。